通常のタイプの痔瘻であれば、手術で全員治すことができる。

いっぽうクローン病の痔瘻は、全員を完全に治すことはむずかしい。

痛みや排膿といった苦痛を生活に支障ないレベルまで改善して維持するのが目標となる。

 

クローン病の痔瘻は、直腸の潰瘍からトンネルができて生じる。

通常の痔瘻と比べると複雑な形になることが多い。

 

トンネルを掃除して、不良肉芽(傷の治りを阻害するぶよぶよした物質)や膿をとりのぞいてきれいにする。

 

膿がたまらないように、掃除した部位に特殊なチューブを通しておく。

治りを促進するために、術後に「レミケード」などの薬を使うことがある。

チューブは当分のあいだ留置し、膿がふたたびたまらないようにする。

 

痔瘻のトンネルが浅くなって炎症がとれた場合には、チューブを抜くことができる。

 

解説

通常のタイプの痔瘻であれば、手術で全員治すことができます。

一方クローン病の痔瘻は、現在の医学では全員を完全に治すことは困難です。

クローン病の痔瘻は、通常の痔瘻とは治療の戦略が異なります。

クローン病を見落として通常の痔瘻の手術を行ってしまうと、傷がなかなか治らなかったり、術前よりひどい状態に陥ってしまうことがあるのです。

大腸肛門科の訓練を積んだ医師であれば、痔瘻の状態を見ただけでクローン病を合併しているかどうかはだいたい見当がつくのですが、最終的には大腸内視鏡検査などの腸の検査を行ってから診断をつけることになります。

痔瘻の術前に大腸内視鏡検査を行うのは、このクローン病の有無をチェックするのが大きな目的です。

クローン病は原因不明の病気であり、現時点の医学では治すことはできません。厚生労働省の「難病」に指定されています。

クローン病の痔瘻と判明したら、長期戦となる覚悟が必要です。

経過の良い人では痔瘻が完治することもあるのですが、完治できなくても痛みや排膿といった苦痛を生活に支障ないレベルまで改善して維持することで、肛門の苦痛を最小限にすることは可能です。

痔瘻のトンネルを掃除して、膿がたまらないようチューブを留置します。しばらくして炎症が落ち着いたところからチューブを順に抜いていきます。

以前はどうしても最後の一本か二本のチューブが抜けず、長期間置いておく必要があるケースが大多数でした。

これだけでも多くの人はかなり楽になり、喜んでいただいていたのですが、最近ではさらにレミケードなどの画期的な薬が出現しています。

術後にレミケードの点滴を何回か行うことで、傷の治りが非常に良好となり、うまくゆけばチューブがすべて抜けて痔瘻が完治するケースがかなり多くなってきているのです。

クローン病痔瘻の治療は、近年大きく進歩しています。