深くて複雑な痔瘻に行われる手術。

もっとも変形リスクが低いが、再発率が高いという短所がある。

 

深いIIL型痔瘻やIII型痔瘻にこの術式が用いられることが多い。

図は低位筋間痔瘻(IIL型痔瘻)を示す。

 

痔瘻の瘻管(トンネル)を電気メスを使って切除しているところ。

 

 

痔瘻の瘻管をとりのぞいたところ(完全にとりのぞかない方法もある)

 

入り口を縫ってふさぐ。

 

治癒したところ。

 

解説

深いII型痔瘻やIII型痔瘻に切開開放術を行うと、肛門が変形する恐れがあります。

この場合に用いられる術式のひとつとして、括約筋温存術があります。

イラストを見ると単純明快な方法なのですが、実際は難度が高い術式であり、ポイントを押さえた手術を行わないと容易に再発します。

この括約筋温存術は、理論上は最も短期間できれいに治る理想的な方法なのですが、実際には狙い通りにうまくいかない場合が多く、再発率も他の術式(切開開放術・シートン法)とくらべるとはるかに高い(10~15%くらい)という短所があります。

また、温存術に向いたタイプの痔瘻と向かないタイプの痔瘻があるため、すべての痔瘻に括約筋温存術ができるわけではありません。

括約筋温存術が向かないタイプの痔瘻に無理やりやってしまうと、失敗して肛門に大ダメージを与えてしまう可能性もあるのです。

さらに、術後の排便コントロールも厳密に行う必要があるので、通常1週間程度の入院が必要となります。

これらの色々な理由のため、複雑痔瘻の手術はどの治療法がベストかという点において、全国の肛門科専門医の間でもいまだに意見が分かれています。

全国の有名大腸肛門科専門病院の中でも、括約筋温存術を中心に行っている施設と、シートン法を中心に行っている施設に二分されているのが現状です。

最近の社会情勢により、短期入院の需要が高まっており、高い再発率の手術が容認されにくくなってきています。

さらにシートン法の技術が洗練され、変形のリスクが少なくなってきている現在、われわれの施設では括約筋温存術を行う機会は減少しており、今では長所の多いシートン法を行う比率が高くなってきています。