もっとも単純確実で、再発率の低い術式。
浅くて単純な痔瘻に用いられる。
深くて複雑な痔瘻に切開開放術を行うと、肛門変形を生じるリスクがある。
切開解放術は、比較的浅い痔瘻に行われることが多い。
図は低位筋間痔瘻(IIL型)を示す。
痔瘻の瘻管(トンネル)を確保することで、正確に切開しやすくなる。
電気メスを使って瘻管を切開していく。
奥から手前に向かって少しずつ切開していくところ。
瘻管の切開が終わったところ。
創の左右を縫合固定して手術終了。
術後は時間をかけて組織が盛り上がって治ってくる。
痔瘻が治癒した状態。
解説
I型痔瘻や、浅くて単純なII型痔瘻の場合には、通常切開開放術が行われます。
切開開放術はもっとも単純確実な痔瘻の術式であり、再発率が一番低い(1~2%)という長所があるので、切開しても変形の起こるリスクが低い痔瘻の場合に用いられます。
術後も排便コントロールを厳密に行う必要はないので、短期入院手術にも対応できるというメリットもあります。
いっぽう深いII型痔瘻や、III型痔瘻・IV型痔瘻といった複雑なタイプの痔瘻にこの術式を用いると、肛門が変形して便漏れが起こる可能性が高くなります。
こういった複雑な痔瘻の手術は、肛門科の専門病院とそれ以外の病院では結果の差が大きく出ます。
痔瘻の手術は、肛門科を専門とする病院で受けられることをおすすめします。
(マニアックな蛇足・・・)
この痔瘻の切開開放術は、数ある肛門科の手術の中でももっともシンプルなものと考えられており、肛門科手術に熟達した医師であればものの数分で終わってしまいます。
手術書を読んでみても、この「痔瘻切開開放術」はいかにも簡単にできそうな記載がなされているので、肛門科を専門家としない医師が手がけることも多いようです。
でも実際には、肛門科を専門としない医師が切開開放術を手がけて、経過が悪くて肛門科専門病院を受診してくる方がけっこういます。
診察してみると、本当に色々なトラブルのパターンがあります。たとえば・・・
痔瘻のトンネルを正確に切開できていなかったり・・・
切開した左右の皮膚がくっついて浅い痔瘻を再びつくっていたり・・・
傷の形が悪くて治らなくなっていたり(難治創といいます)・・・
奥に向かう痔瘻の瘻管(高位筋間痔瘻:IIH)を見逃して再発したり・・・
実を言うと私も肛門科の手術を始めた10年ほど前には、ベテラン肛門科医師の手術助手を行いつつ、「痔瘻の切開開放術って簡単な手術じゃないか」と思っていました。
でも正直言って当時の私は、ベテラン肛門科医師がこれらのトラブル対策をすべて押さえた手術をわずか数分でやってのける匠の技がまったく見えていませんでした。
こんな経験を色々としてからというもの、私はどんな手術も「簡単だ」とは思わないようになっています。
肛門科を専門としない外科医の中には、「肛門科の手術なんて簡単じゃないか」という人がいます。
でもたぶんそれは経験が少ないために、たまたまマグレでトラブルに遭遇しなかっただけということです。
いっぽう肛門科専門の医師は、ベテランの先生ほど、「肛門科の手術は難しい」といった発言をされます。
多くの失敗パターンを経験するほど、手術の奥深さが分かってくるのだ瘻と考えています。