数十年前に痔瘻の手術を受けた方の肛門を診察してみると、肛門が大きく変形していることがあります。

昔の手術は「一回の手術で治す」ことが重視され、肛門機能のことはあまり重視されていなかったと聞いたことがあります。

昔の痔瘻の手術は切開開放術が主体であり、変形が起こりやすいタイプの痔瘻(前側方の痔瘻や深い痔瘻)であっても、すべてこの術式で治療していた施設もあったとのことです。

当時痔瘻に対し括約筋温存術やシートン法を行い、変形を最小限にとどめようと努力していたのは、ごく一部の先進的な大腸肛門科専門の施設だけだったのでしょう。

 

痔瘻の術後に変形が起こると、手術を行ったところが「鍵穴状」にへこんで見えます。

そしてそこから便や粘液が漏れて、「下着が汚れる」とか「下痢をがまんしづらい」という訴えが多くなります。

さらに将来その変形したところから直腸の粘膜が脱出して、直腸粘膜脱のような状態になることもあります。

 

数十年にわたる医学の進歩から、「どのようなタイプの痔瘻に、どういう手術をしたら変形を起こすリスクが高くなるのか」ということはかなり明らかとなっています。

そして、変形を最小限に抑えるべく、痔瘻の術式も徐々に改善されてきています。

術式の改良がすすんだ現在では、「鍵穴状」にはっきりへこんで見えるような変形を起こして、便漏れに悩まされるようなケースはまれになっています。

 

大腸肛門科を専門とする病院であれば、長年の経験から変形のリスクを最小限にして痔瘻を治す戦略を確立しています。

痔瘻の手術は、経験を積んだ専門病院で受けられることをお勧めします。