直腸が肛門から脱出する疾患で、高齢女性によく見られる。
自然に治ることはないので、治すには手術が必要。
手術は肛門側から行うものと、おなか側から行うものがある。いずれも長所短所があるので、直腸脱の状態や体力などに応じて使い分けている。
直腸脱とは
直腸脱とは、直腸が肛門から脱出してくる疾患であり、高齢の女性に多く見られます。
軽症のうちは排便時に一時的に脱出するだけですが、重症化すると脱出したままとなり、出血や痛みを伴うようになります。
また直腸の脱出を繰り返すと、肛門の締まりがゆるくなって便が漏れやすくなってきます。
直腸脱を有する人は、高率で子宮脱や膀胱瘤などを伴うこともあります。
直腸脱の手術
直腸脱は自然に治ることは無いので、治すには手術が必要です。
直腸脱の手術には、肛門側から行う手術(経肛門手術)と、おなかの中から行う手術(経腹手術)があります。
経肛門手術
経肛門手術は体の負担が軽い手術であり、高齢者によく行われます。
下半身麻酔や局所麻酔で行うことができ、おなかを切る必要が無く、おなかの中から内臓を切ったり縫ったりする必要も無く、短時間で終わるという長所があります。
経肛門手術には、デロルメ法と三輪-Gant法という二つのやり方があり、状況に応じて使い分けます。
経肛門手術で成績がいいのはデロルメ法ですが、大きく脱出する直腸脱や、過去に手術を受けて癒着しているような直腸脱には適さないので、そのような場合には他の術式を考慮します。
三輪-Gant法はデロルメ法よりやや再発率は高くなるのですが、体への侵襲(ダメージ)がもっとも小さいため、状況に応じてこの術式が選択されることもあります。
経腹手術
経腹手術はおなかを切っておなかの中から行う手術です。これを直腸固定術といいます。
最近はカメラを使った腹腔鏡手術が主流となっており、小さい傷で手術を行うことができるようになっています。
経腹手術は全身麻酔が必要です。全身麻酔は心臓や肺に一定の負担がかかるため、高齢者に行うには一定のリスクがあります。またこの経腹手術は、経肛門手術と比べて手術時間も長くなります。
だから経腹手術は、「比較的若い人で、かつ大きく脱出する直腸脱」「経肛門手術で再発した直腸脱」などに限定して行っています。
状況に応じて術式を使い分ける必要がある
経肛門手術と経腹手術の両方を日常的に行っている病院は、全国的にもほとんどありません。
われわれの施設は、おそらく全国最多の直腸脱手術を行っており、状況に応じて経肛門手術と経腹手術の両方を行っています。
経肛門手術①:デロルメ法
直腸の粘膜をはがしていく。
粘膜をはがすと、下に筋層があらわれる。
筋層を図のように縫っていく。
余った粘膜は切り捨てる。
糸をしばると直腸が元の位置に戻っていく。
粘膜同士も縫合する。
肛門がの締まりがゆるい場合には、肛門のまわりに特殊な繊維を通して、締まりを少し強くする(ティールシュ法)。こうすることで再発の可能性が低くなる。
経肛門手術②:三輪-Gant法
直腸の粘膜をしばっていく。
たくさん(20~30か所くらい)しばっていく。
そうすると直腸が徐々に元の位置に戻っていく。
肛門がの締まりがゆるい場合には、肛門のまわりに特殊な繊維を通して、締まりを少し強くする(ティールシュ法)。こうすることで再発の可能性が低くなる。
経腹手術:直腸固定術
おなかの中から、直腸のまわりをはがしていく。
ぶらぶらになった直腸をつり上げて、正常の位置に戻す。
つり上げた直腸を腰の骨(仙骨)に固定する。