無痛大腸内視鏡検査(無送気軸保持短縮挿入法)について

内視鏡の挿入法は、大きく「ループ挿入法」と「無送気軸保持短縮挿入法」に分けられる。

現時点では、「ループ挿入法」を行っている医療機関の方が多数派。

無痛大腸内視鏡検査とは、ふつう「無送気軸保持短縮挿入法」のことをさす。

無痛大腸内視鏡検査の方が、楽で痛くない検査を受けられる。

もし自分が大腸内視鏡検査を受けるなら、必ず無痛挿入法ができる医師に依頼する。

 

大腸の構造について

直腸(肛門から入ってすぐ)および下行結腸は、周囲に固定されている。

いっぽうS状結腸は固定されておらず、ブラブラしている。

大腸内視鏡を挿入するとき、このS状結腸を伸ばすか伸ばさないかで、楽に検査できるか否かのかなりの部分が決まる。

 

ループ挿入法(一般的に行われている挿入法)

現時点では、この「ループ挿入法」を行っている医療機関の方が多数派。

標準的な技術レベルの医師がこの「ループ挿入法」で大腸内視鏡検査を行った場合、痛みを生じる可能性がかなり高くなる(もちろんループ挿入法で大腸内視鏡検査を行う場合でも、ループ挿入法に熟達したスペシャリストがやれば痛みが生じる可能性は低くなるが)

ループ挿入法はカメラを腸に押し込みながら進めていく挿入法であるため、腸が伸びてつっぱってくる。場合によっては強い痛みを訴える。

だからこの「ループ挿入法」で検査を行う場合、痛みをごまかすために強力な鎮静剤を使うことがある。

この場合検査中に患者さんの意識がなくなってしまうので、大腸ポリープが見つかってもその場でポリープ切除の同意を得ることが難しくなってしまう(ポリープ切除は手術の一種なので、当然本人の同意を得なければならない)

だからこの「ループ挿入法」を行っている病院では、ポリープが見つかってもその場で切除してくれないこともある。

この場合後日あらためて大腸ポリープ切除を行う必要があるので、もう一度大腸内視鏡検査を受けるための余計な手間と費用がかかることになり、さらに2リットルの下剤をまた飲まなければならなくなる。

 

無送気軸保持短縮挿入法(われわれが行っている、いわゆる「無痛挿入法」)

腸をていねいにたたみこんで短縮しながらカメラを進めてゆく。

腸に負担をかけないようにゆっくり挿入するため、ループ挿入法とくらべて1~2分ほど余計に時間がかかることが多い。

この挿入法は、検査のスピードは重視していない(スピードだけを重視するなら、ループ挿入法の方が速い。ループ挿入法の上級者は平均3分くらいで挿入が完了するが、われわれの方法は平均4~5分程度かかる。)

この挿入法は、楽で安全な大腸内視鏡検査を受けてもらうことを重視した方法といえる。

慣れた医師では、大半のケースで腸を伸ばさず負担をかけることなく挿入できる。
一部のケースでは腸が多少伸びることがあるが、この場合伸びるのは少しで腸のつっぱりも軽くて済むため、痛みを訴えるケースは少ない。

この方法では強い鎮静剤は必要ない。軽いもので十分。

観察時には患者さんも目が覚めているので、医師と一緒にモニターを見ながら説明を受けることができる。

もちろん大腸ポリープが見つかったらその場で同意をとって切除することができる。

一回の大腸内視鏡検査で大腸ポリープ切除まで完了できるので、手間と費用と下剤を飲む負担がはるかに軽くてすむ。

 

無痛大腸内視鏡検査の著書が出版されました。

「無送気軸保持短縮法」による無痛大腸内視鏡検査を行っている大腸内視鏡の専門家たちによる共著です。
管理者(赤木一成)は「4章:よくわかるnon-loop挿入法」の章を担当しています。

 

解説

大腸内視鏡検査は、ひとむかし前までは「痛くて苦しい検査」と言われていました。

しかし近年では、楽な大腸内視鏡の検査法が飛躍的な進歩をとげたため、一部の先進的な大腸肛門科を専門とする病院などでは「きわめて楽」で「痛くない」大腸内視鏡検査を受けられるようになっています。

「楽な大腸内視鏡検査」の現時点における最先端の方法が、われわれが行っている「無痛大腸内視鏡検査」です(無送気軸保持短縮挿入法とか、ストレート法などと呼ばれることもあります)

大腸の状態は個人差が大きく、腸が非常に長い人や癒着している人もたくさんいます。また、極めて敏感で痛みを感じやすい人もいます。

「無痛大腸内視鏡検査」といっても、こういった人に大腸内視鏡検査を行う場合には、どうしても多少の痛みが生じるケースはあります。

ですから、この「無痛」という表現は100%の人に該当するわけではないので、すこしオーバーな部分もあるかもしれません。

・・・それでもこの無痛大腸内視鏡検査を見ていると、通常のループ挿入法と比べて「圧倒的に痛くない」という印象を受けるのは事実です。

私は職業柄、多数の医師が大腸内視鏡検査を行っているところを見てきました。

もちろんループ挿入法も、無痛大腸内視鏡検査法も両方たくさん見てきました。

そして私自身、ループ挿入法と無痛大腸内視鏡検査法でそれぞれ一回ずつ大腸内視鏡検査を受けたこともあります(鎮静剤なしで受けました)

その経験上言えることは、「もし自分がこんど大腸内視鏡検査を受けるとしたら、必ず無痛大腸内視鏡検査法ができる医師にお願いする」ということです(あくまでも私の個人的な意見ですが)

わたしが現在所属している辻仲病院は、この無痛大腸内視鏡検査法による大腸内視鏡検査を全国でもっともたくさん行っている大腸肛門科専門病院です。

この病院がある柏市の人口は40万人程度であり、決して大都市ではありません。

それでもこの病院および近隣の関連施設(内視鏡センター)を合わせた大腸内視鏡検査の件数は年間20000件と、全国でもおそらく三本の指に入る件数を行っています。

また、常勤医一人当たりの大腸内視鏡検査の件数も年間1000件程度であり、これもおそらく全国の内視鏡を行う医師の中で上位1%に入ると思います(ちなみに全国各地の大学病院や総合病院では、年間1000件程度の大腸内視鏡検査を10人くらいの医師で分け合って行っているところがほとんどです)

これほど数多くの大腸内視鏡検査を行っている理由は、「ここの病院の大腸内視鏡検査はとっても楽」という評判が確立しており、近隣のみならず他県からも多数の方が訪れるためです。

われわれの病院には多くの医師たちが大腸内視鏡検査の修行に訪れ、その技術を習得した者たちが全国各地で「楽な大腸内視鏡検査」を行い社会に貢献しています。

 

・・・私も十年以上昔には、「ループ挿入法」で大腸内視鏡検査を行っていました。

しかし私が当時行っていた(未熟な)ループ挿入法では患者さんに与える苦痛が大きく、検査時間も長時間を要していました。

患者さんの立場にしてみると、長時間(下手すると30分~1時間近く)激痛に苦しみながらも、検査はたびたび失敗(カメラが一番奥まで入らないこと)していたのです。

検査が失敗すると、患者さんはへとへとのまま注腸造影検査(バリウム検査)まで受ける羽目になっていたのです。

大腸肛門科を専門にする以上、このままではいけないとずっと思い続けていました。

ある日、大腸内視鏡検査と肛門科では全国的に有名な辻仲病院を見学する機会に恵まれました。

そしてここで見た無痛大腸内視鏡検査法の素晴らしさに圧倒され、迷うことなくこの挿入法を習得することを決意し、この病院に移籍して今に至るまで修行を続けています。

この病院にお世話になって以来、私は毎年1000件前後の大腸内視鏡検査を行い、現在に至るまで腕を磨き続けてきました。

大腸内視鏡検査の経験数が15000件を超えた現在では、ほとんどの患者さんを痛がらせることなく(100%の人をまったく無痛でやるのは無理ですが)、平均すると5分未満で挿入でき、99.9%で検査が成功するようになっています。

昔と比べると、私の大腸内視鏡検査の技術は圧倒的に向上しているのですが、まだ自分が理想とする大腸内視鏡検査の域には到達していないので満足はしていません。今でも試行錯誤が続いています。

病院の検査には色々なものがありますが、その中でも大腸内視鏡検査は医師の実力差がもっともはっきりあらわれる検査のひとつです。

大腸内視鏡検査を受けようと考えている方は、よく調べた上で医師を選ぶことをお勧めします。