最も深く複雑なタイプの痔瘻。

治療にてこずることもしばしばある。

 

骨盤直腸窩痔瘻(IV型)では、坐骨直腸窩痔瘻(III型)の瘻管に加えて、瘻管が奥深くに伸びている。

 

瘻管の中にたまっている膿を取り除き、きれいに掃除する。

 

瘻管に図のようにゴム輪をかける。

このやりかたをシートン法という。

左右の瘻管にも膿を出すチューブをかけることが多い。

 

奥の方から傷が徐々に治ってくる。

 

奥の瘻管がほとんどふさがったところ。

左右のチューブは術後しばらくして傷がある程度治ってから抜く。

 

傷が徐々に治ってくるにしたがって、ゴムが浅くなってゆるんでくる。

ゴムがゆるんできたら締めなおす。

 

さらに治ってきた。

 

ゴム輪が脱落して傷が治る。

この方法だと変形はまず起こらない。

 

骨盤直腸窩痔瘻(IV型)では、図のように極端に複雑なタイプのものも存在する。

このような極端に複雑な痔瘻や、再発を何度も繰り返すような痔瘻の場合には、上記のシートン法を行うと再発する可能性が高い。

 

このような場合には、ゴム輪を通すかわりに痔瘻の瘻管を切開することもある(Hanley法)

 

解説

このタイプの痔瘻は、もっとも深くて複雑なタイプの痔瘻です。

IV型痔瘻は頻度としては痔瘻全体の2~3%程度とまれなものなのですが、手術は大変で肛門科手術のなかでももっとも難度が高いもののひとつと言っていいと思います(実際には私の所属する大腸肛門科専門病院では、重症の痔瘻があちこちから紹介されてくるので、IV型痔瘻の比率はもっと高くなると思います)

日常的に痔瘻の手術を行っていると、I型~III型の痔瘻の手術で再発を繰り返して困るようなことはあまりありません。

一方IV型痔瘻は肛門科の専門家でもてこずることがある「強敵」です。

何回も再発を繰り返すこともあり、うまくやらないとひどい変形を起こす可能性もないとはいえません。

III型痔瘻やIV型痔瘻といった深くて複雑な痔瘻の治療は、必ず肛門科を専門とする医師の手術を受けられることを強くお勧めします(もっとも専門家以外は普通手を出さないでしょうが・・・)

 

(マニアックな蛇足・・・)

私の所属する大腸肛門科専門病院ではこれまでに数万人の痔瘻の手術を行ってきました。

これだけの数の痔瘻の手術をやっていると、当然一定の頻度で再発を経験することになります(痔瘻の手術を行って再発0という医師は存在しません。どんなに経験豊富な専門家でも再発することはあります。ただし専門家とそうでない医師の間には歴然とした成績の差があるのも事実です)

この再発する確率が一番高いのが、ここで示したIV型痔瘻です。

再発した場合には原因を詳しく調べて再手術を行うことになるのですが、どれだけてこずっても最終的には全員(全員じゃなくても99.99%くらい?)の痔瘻を治すことができています。 ※ただしクローン病の痔瘻は話が別です。

また、複雑痔瘻の手術というと、「人工肛門が必要なんでしょうか?」と聞かれる方がときどきいらっしゃいます。

心配されるのは当然だと思いますが、クローン病の痔瘻を除けば、痔瘻の治療で人工肛門が必要となる人はほぼ皆無です。